【試し読み】「人生100年時代を楽しむ おとなのピアノの始め方 発表会でショパンが弾けるゴキゲン練習法」

令和元年7月14日に「人生100年時代を楽しむ おとなのピアノの始め方 発表会でショパンが弾けるゴキゲン練習法」をキンドルで出版しました。その「試し読み」を下に記します。

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全編はアマゾンで購入できます。

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キンドル本は専用端末がなくても、スマホやPCにアプリを入れて読むことができます。その説明をここに書きました。

http://yoshihiro-kawase.hatenablog.com/entry/2018/02/27/150946

 

ーーーーーー 試し読み ---ーーー

 

目次

はじめに

第1章 おとなのピアノの始め方
ピアノが弾きたい
私のピアノの始め方
おとなのピアノ教室
初めての発表会
個人レッスン
レッスン日記
レッスン日記の振り返り

第2章 発表会でショパンが弾けるゴキゲン練習法
発表会に向けた練習
発表会の振り返り

ゴキゲン練習 その1
シューベルト即興曲142-3のテーマ
とまらない演奏のための練習

ゴキゲン練習 その2
ショパンの別れのワルツ
音楽の表現を学ぶ

ゴキゲン練習 その3
ショパンの雨だれ
自分の思いを音楽にのせる

第3章 おとなのピアノの楽しみ方
発表会はイベントだ
街ピアノを弾く
ミュージックバーのライブ
ポップスを弾き語る
クラシックを弾き語る

おわりに

付録-1:「おとなのピアノ」の選曲、ショパンモーツアルト、ベートーベン

付録-2:生ピアノ、電子ピアノ、ハイブリッドピアノ

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はじめに
本書は、ピアノ練習歴12年目にして「おとなのピアノの楽しみ」に目覚めた著者が、その目覚めに至るまでの過去の練習態度の反省と、それから心を改めて、「発表会の成功」を目指して基礎からしっかり積み上げる楽曲練習をしてきた内容と成果を、正直な気持ちで記したものです。

「好きな曲をじっくり楽しく学ぼう」という思いが根底にあります。

3年間にわたる、シューベルトショパンの3つの課題曲の練習を通じて、一つ一つの音をきれいにつなげる、止まらない演奏のコツをつかむ、和音間の音のバランスをとる、音楽の横の流れと和音の縦の重なりを合わせる、強弱やテンポの指示に込められた作曲者の思いを知る、何を表現しどういう思いを乗せるのかを考えて弾く、ということを楽しく習いました。その練習方法を「ゴキゲン練習法」と名付けて詳細に説明し、それをどのように学んでいったかを、当時の思いを振り返りながら、時間を追って語っています。

それぞれの発表会の出来不出来とその理由を記しています。最大の課題である、「なぜ緊張するのか」に思いを巡らし、それにどう対処したらいいのかも述べています。

発表会が楽しめるようになったら、ストリートピアノやライブハウスでのパフォーマンスにもチャレンジしました。ライブでは弾き語りができるとさらに楽しめると思います。その経験についても語っています。

(途中省略)

 

初めての発表会

おとなのピアノ教室に通い出してから5か月後に、電子ピアノを使った「教室全体の発表会」があるといわれました。そこで、大胆にもバッハとハウルの2曲を弾くことにしました。

 

どちらも暗譜で最後まで行けるようにはなっていました。体育会的練習を繰り返してとうとう発表会当日を迎えました。

 

ところが、これが朝からとても緊張するのです。発表会は午後なので、午前中に自宅でさらってみると、今まで間違えたことがないところで間違えたり、暗譜できていると思っていたのに、途中で弾けなくなったりするのです。自分ではあまり緊張しないタイプだと思っていただけに、こういう状況になること自体に戸惑いがありました。

 

さて、そんな緊張と不安をかかえたまま、とうとう本番です。自分の番が近づくとモヤーっとした不安が襲ってきます。体育会系的な指で覚えた暗譜なので、「えっ、最初の音って何だったっけ」、と、いまさらのように譜面を見直しますが、頭に入りません。緊張で手も冷たくなってきました。

 

とうとう順番がやってきました。えいっと、バッハを弾き始めました。緊張のせいかいつもより速いテンポで入ってしまいました。指は少し震えています。「勢いで行くぞ」と、途中までは曲は流れましたが、間違えて止まってしまい、最初から弾き直してしまいました。それでまた違うところで間違える。何とか最後までは行きましたが、上の空のような演奏でした。ハウルはどんな演奏だったか記憶にありません。達成感とは程遠いものでした。

 

練習ではもっとできたのに、と思っても後の祭りです。今思えば、練習の仕方が良くなかったんだと思います。やはり体育会的根性練習ではだめだなあ、個人練習でしっかり教わろうと思いました。

(途中省略)

 

ゴキゲン練習 その1

シューベルト即興曲142-3のテーマ

とまらない演奏のための練習

 

以下のような順序でレッスンは進んで行きました。

 

1)右手だけで弾く。最初は指定のテンポよりゆっくり弾く。メトロノームを使うのもよい。つかえずに弾けるようになってからテンポをあげていく。メロディーラインがしっかり歌えるようになるまで練習する。ペダルは踏まない。

 

2)それが出来たら同じことを左手で行う。

 

3)それが出来たら両手で弾く。途中で止まらないように。うまく弾けないところはそこだけ取り出して部分練習を何度もする。

 

4)最後にペダルをつける。

 

基本は、「ペダルなしでしっかり歌うように弾く。これを左右別々に仕上げてから両手で弾く」ことです。

 

「最初はペダルを踏まない」、これは指だけでしっかりレガートで弾く練習です。

 

初心者のころは「ピアノってペダルを踏まないときれいな響きの音にならないから、ペダルをうまく踏めるようにならないといけない」と思っていましたが、これがそもそも大間違いでした。

 

初心者の頃は指の力がありません。音符の先を急ごうとするので、鍵盤からすぐ指が離れてしまいます。ひとつひとつの音がしっかり弾けず、音をつなげて弾けません。だからペダルに頼るのです。この思い違いを直して、しっかり指だけでレガートで弾けるようになるまで時間をかけて練習します。

 

その時に目は譜面に向けて、あまり鍵盤を見ないで弾くように言われました。それはなかなかできませんでしたが、鍵盤ばかりを見て猫背になっている悪い癖を、椅子の位置や座る深さを含めて直されました。譜面を見て弾く練習をすると、自然に背筋が伸びて、いい姿勢になるのです。そうすると変なところに力が入っている悪い癖が治って、音がのびのびと、きれいに鳴るようになるのです。

 

初心者のころ、指が不安げに鍵盤の上を泳いでいる、とくにスタッカートで指が鍵盤から全部離れている時がひどいと言われました。音符が指定する長さの間、指が鍵盤をしっかりとらえているということが基本中の基本であることを再度しっかり習いました。

 

左手部分も、左手だけで暗譜で弾けるようになるまで練習するようにといわれました。

 

初心者の頃は、左手部分だけでも音楽が流れていることに思いが至らず、右手に合わせる感じでなんとなく左手をつけて、曲の最初からの流れで暗譜していました。

 

このような暗譜をすると、発表会で緊張して、右手がミスタッチをして音楽が止まってしまうと、左手は行き場をなくして立ち往生となります。右手が止まっても左手の伴奏部分が独立して流れていれば、その左手にあわせて右手を再開することが出来て、立ち往生という大きな失敗をなくすことが出来ます。

 

そうです。弾き語りと同じで、歌に相当する右手が止まっても、伴奏する左手が動いていれば、音楽は止まらずに流れていくのです。そのことの理解が私には欠けていたのです。

 

譜面には音符がいっぱいあります。最初はそれを縦に見て和音をちゃんと弾くことに気持ちが向かいます。それも大切ですが、音楽は横に流れていくことを理解して練習しましょう。

 

左手の最低音がベースのように音楽を支えています。ベースだけを拾って弾いてみるとそれがわかると思います。そのベース音の上を最低音以外の伴奏が流れていきます。

 

左手の和声がどのように流れているかをベースと伴奏を別々に聴きながら、それに右手のメロディー部分を合わせて歌うように弾くことが大切だと思います。

 

この積み上げ型練習法で、シューベルト即興曲142-3のテーマを練習していきます。

 

この曲の右手は、最初はメロディーだけで始まります。ここは指をしっかりさせて歌うように弾く練習をします。レガートの中にスタッカートがついているので、音をつなぎながらも歯切れのよい音を意識します。

 

メロディーはその後、オクターブの重音になり、後半は和音になります。このように音の構成がだんだん分厚くなってきます。後半の和音は、ただ和音を弾くという意識ではなく、和音の中の一番上の音で書かれているメロディーラインが浮き出て流れていくように弾きます。和音だから縦に3つの音を鳴らす、という弾き方ではメロディーラインが聴こえて来ません。最高音をレガートで弾いて、下の2つの音をそれに添える意識で練習します。右手の中を二つに分けて、ソプラノのメロディーラインにアルトがハーモニーをつけているイメージで弾きます。

 

次に左手です。小指でベース音を弾いてから次に弾く和音の最高音は1オクターブ以上あがります。なので、左手が大きく動きます。ベース音をつなぎながら滑らかに和音を弾くのがとても難しいということにいまさらながら気づきます。腕の無駄な力を抜いて、柔らかく動かす練習をします。バスの上にテノールのハーモニーが載っている意識です。

 

ピアノ曲は、右手メロディー、左手コード伴奏という単純なものだけではありません。手は2つですが、右手はソプラノとアルト、左手はテノールとバスの4声のコーラスだと思うと、音のバランスや、メロディーとベースの流れのつけ方のレベルが一段上がると思います。

 

先生は、「和音で弾くところから急に音符が増えるので自然に音が大きくなるでしょ。ピアノからメゾフォルテになるところだけれど、音が大きくなり過ぎないように気を付けてね。メロディー以外の音を少し小さめにね。」と高度な指導をしてくださいます。

 

何か月も片手練習を繰り返して、やっと両手練習の許可が出ました。片手では弾けていたのに両手ではうまくいかないところが出てきます。右手と左手が完全に独立して動く訓練が出来ていればそうはならないのでしょうが、当時の私はそうではありません。

 

うまくいかないところを取り出して部分練習を繰り返します。その時も、勢いで弾いてはいけません。それをすると体育会系に逆もどりです。

 

例えば10小節目のところです。左手が8分音符でソーシーと5-1の指で弾いているときに、右手がシードシと3-5-4の指で音を重ねます。この時、後のドシは32分音符の装飾音なので、左手がシーを弾いた後、16分休符分待ってから素早くドシと弾きます。このように、左手と右手を独立させつつ、音符と指を関連付けるようにします。

 

こういう左手と右手のリズムが違うところを両手で弾くのが難しいのです。最初はゆっくり練習して、目で見る音符と左右の指の動きを関連付けて脳に覚え込ませるようにしましょう。この時はリズムの違う左手と右手の音符を縦に見て、どこで左右の手の音の発音のタイミングを合わせるかを理解してそれがぴったり合うようにします。それができるととても気持ちのいい、上手な演奏に聴こえます。

 

両手練習が進んでいくと自然に暗譜が出来ています。しかし、その暗譜が、指が勝手に動いているという体育会的なものでは本番で不安になります。音符がドレミで頭に入っていて、その音符をどの指で弾いているかを覚えている暗譜がしたいですね。頭の中に鍵盤を思い描いて、その上を指がどう動いているか見える暗譜がしたいです。でも難しいですね。常に譜面を見ながらドレミで歌っているような意識で練習していると、だんだんそうなって来ると思います。

 

発表会が近づいてきました。もう、第1変奏を習っている時間はありません。先生もテーマをしっかり弾きなさいとのこと。変奏曲全体の最後9小節のコーダの部分だけ何とか頼み込んで習いました。

 

本番の直前にはグランドピアノのレッスン室を何度も借りました。発表会のつもりで演奏し、それを録画してチェックしました。ほぼノーミスで最後まで音楽は流れていて、一応人に見せられるかな、と自分では思えるところまで来ていました。なので、それが再現できれは本番も大丈夫だろうと思っていました。

 

さて、本番です。今回は「ハレ」の衣装のタキシードを初めて着ました。これはベートーベンの第九を大阪城ホールで歌うために作ったものです。ところがピアノに座って鍵盤に手を置くと、カフスが鍵盤に当たっているように思いました。しまった、やっぱりアームバンドをしておくべきだったと思いましたが、後の祭りです。少しシャツをまくり上げるようにしてから、弾き始めます。思わぬ事態のせいか、気持ちが集中できません。また、緊張のせいか指がしっかり鍵盤を押せません。右手はミスタッチが出てしまいました。今までなら、あわてて弾き直しとなるところですが、今回は止まらずに進んで行けました。先生の言う通り、左手がちゃんと動いてくれました。中間部の和音もさすがのスタインウェイ、いい響きです。最後にくっつけたコーダも何とか弾けました。予想はしていましたが、コーダを弾く前に何人かが拍手をくれたのはちょっと複雑な気分でした。

 

演奏の質という面では満足はできませんでしたが、先生は「初めて最後まで止まらずに行けたのはよかったわね。」とのこと。

 

反省点は、やはりミスが出ることです。そして、ミスの原因となっている、「なぜ緊張するのか」です。先生に聞くと「練習が足らないのよ」の一言です。「タキシードのカフスが~」なんてみっともない言い訳はしません。おとなですから。

 

発表会で満足できる演奏をするには、どこまで練習すればいいのでしょうか。アマチュアなんだから自分が楽しめればいい。確かにそうでしょう。でも、やはり発表会で明らかなミスをいくつもしてしまうと楽しめたとは言えません。やはり、「目指せ、ノーミス演奏」だと思います。

 

少なくとも、ミスが出ても止まらない。これに関しては今回成功したと思います。止まらなかった事でちょっと成長したかなと思いました。

 

ミスが少し出るというのと、ミスなく最後まで弾けるというのは相当な違いなんだろうと思います。

 

演奏の仕上げ方に、これくらいでいいかな、という甘えがあると、本番のちょっとしたアクシデントがきっかけで緊張が高まって、手の動きが悪くなり、ミスが連発して演奏の質を下げてしまうのです。

 

ノーミス演奏が当たり前というところまで弾きこんでおきたいですね。そうでないと、失敗が起きないと逆に不安になるという、変な緊張が発生します。

 

発表会で、演奏がうまく滑り出してそのままノーミスで進んで行くと、かえって、いつミスが出るんだろうという不安が芽生えます。そして、とうとうミスが発生するとその被害は大きい、という経験があります。

 

でも、小さいミスに神経質になり過ぎて縮こまった演奏になってもいけません。音楽をより深く楽しむために演奏の質を上げる練習をしているんだということを忘れないようにしましょう。間違えずに弾けたら終わりではありません。そこからが楽しいのです。

 

「ミスがない、いいぞ、いつもの調子だ、大丈夫。」こういう心理状態になれるまで練習を積んでおくのがいいと思います。

 

そのためには、まず、苦手な部分の部分練習を丁寧に繰り返しましょう。そして、どの部分からでも弾き始められるようにしておきましょう。これは、ミスった時の修復がスムーズにできるバックアップ手段を持っていることと同じになるので、自信がついて気持ちが安定します。

 

発表会の直前は、先生の前で緊張せずにノーミスの演奏が何度も出来るぐらいに仕上げておくのが理想です。

 

「俺のピアノを聴いてくれ!」と心の中で叫べるぐらいになると最高です。それくらいの気持ちで発表会に臨めれば、音楽の流れや表現に意識が集中するので、多少のミスがあっても、演奏も気持ちも乱れないようになると思います。そういう段階に達するように練習を積み上げていきたいなあ。と思いました。

 

それを念頭に置いて次の発表会に向けて練習を始めたいと思いました。

(途中省略)

 

「おとなのピアノ」の選曲、ショパンモーツアルト、ベートーベン

「おとなのピアノ」でどんな曲を弾こうかな、と思いますよね。楽しい悩みでもありますが、うまく弾けるようにならないと苦しい悩みになってしまします。

 

本編では発表会向けにはその時の力量にあっている自分の弾きたい曲を先生と相談して決めることをお勧めしました。

 

クラシックの名曲を弾きたいと思うと、通常のピアノレッスンの課題曲として出会うのが、ベートーベンの「エリーゼのために」や「モーツアルトハ長調ソナタ(K545)の第1楽章」だろうと思います。これらの曲は子供も弾くからちょっと、と思われる方もいらっしゃるでしょう。

 

そういう方へのお薦めがショパンです。なにも、「英雄ポロネーズ」や「バラード」に挑戦しようと言っているわけではありません。本編で「別れのワルツ」と「雨だれ」のゴキゲン練習法を紹介しました。ワルツには、「左手がリズム、右手がメロディー」を基本とする、弾きやすい曲が他にもあります。そうです。ショパンのワルツがおすすめなのです。

 

誰もが弾きたい「華麗なる大円舞曲1番」も、すこしゆっくり目に弾くのであれば、なんとかなるんじゃないかと思えます。ショパンは少しゆっくり目に弾いてもショパンショパンです(モーツアルトはそうではありませんが)。実は13年目の発表会はこの曲に再挑戦するつもりでした。ですが、先生からまだ早いと言われて、「別れのワルツ」にしたのです。

 

ショパンのワルツは、アマチュアが自分の力量に合わせて弾いてもショパンに聴こえるのがいいところです。響きとメロディーラインがショパンそのものなのです。発表会では、スタインウェイをペダルを使って和音を響かせて弾いているだけでショパンに聞こえます。ミスをしても美しい響きがそれを隠してくれる感じがして、あまり気持ちが乱れません。つまり、演奏者の技量よりもショパンの曲の素晴らしさが前に出てくれるので、アマチュア演奏者に優しいんだと思います。

 

この真逆なのがモーツアルトです。「モーツアルトって練習曲みたいなもんだろ」というような甘い気持ちでモーツアルトの世界に足を踏み入れると、蟻地獄にはまります。特におとながそうなります。

 

私の発表会仲間で、あの有名なK331の第1楽章にハマって、もう5年以上抜け出せない人がいます。しかも、第1変奏から先に行けないようなのです。5年間もですよ。

 

私の場合は、誰もが知っているハ長調ソナタ(K545)でした。いざ弾いてみると、そのへんにある練習曲を弾いているみたいで、ちっともモーツアルトに聴こえてこないのです。第1楽章はアレグロですが、最初はそんなに速く弾けないので120ぐらいで弾くと、もうモーツアルトには聴こえないのです。そして次々とモーツアルトの仕掛けたワナにハマっていくのです。

 

第1楽章を練習していると、モーツアルトが私の背後の上の方にポカンと現れて(どういう訳かいつも左上です)、

 

「ほら、やっぱりな。ここでクスリ指がうまくいかないだろ。そういうオマエのために書いてやったのさ。まあ、頑張り―や。」と言われているように感じるのです。

 

モーツアルトを弾くという事は自分の技量の未熟さと真正面から向き合うことになるのです。ところが天才が天から降ってきた音を書き留めたような音楽です。弾いていて飽きるとか嫌になるという事が全くないのです。だから、どんどんハマっていくのです。

 

さらに参るのは、うまく弾けないところを何度繰り返し練習してもよくならないのです。そして、そこが弾けるようになるには、別の基礎訓練をしないといけないという事になかなか気づけないのです。その結果さらに深みにはまるという、恐ろしい曲なのです。

 

譜面の見た目は練習曲みたいに簡単に見えるのに、いざちゃんと弾こうとすると、譜面の見た目からは難しいと思えるショパンの雨だれより厳しいのです。

 

K545の第一楽章が完成しないまま、第2楽章を先生に習ったこともあります。これも最初は子供が練習曲を弾いているような演奏になってしまします。だんだん表情がつけられるようになると、短調に変調したところは弾いていて泣きそうになることもあるし、最後のところは何か「天涯の孤独」をあらわしているように感じて参ってしまうのです。もう抜けられないのです。

 

第3楽章を習うと、最後はピアノ1台でオーケストラをやっていることがわかります。それが全く表現できていない自分と向き合わなくてはならなくなります。

 

それくらいモーツアルトは「楽しい」のです。もう、一生モノです。

 

さて、ベートーベンです。私の愛奏曲は「悲愴第2楽章」です。一番練習していると思います。習い始めて2年目の発表会で弾くという暴挙をなした後も、何度も自習してきました。昨年、「ゴキゲン練習法」で真面目に練習をやり直しました。そして、先生の前で止まらないで最後まで弾くと「やっとちゃんと教える気になったわ」と言われて、もう半年以上習っています。そしてとうとう、15年目の発表会で弾く許可が出ました。

 

レッスンでは、昔の悪い癖が消しきれずにいいかげんに弾いているところを丁寧に直していきます。例えば、

 

・和音を弾くときの各指の打鍵のタイミングを合わせる。

・和音の中のメロディーラインが浮き出るように弾く。

・中間部はppで入る。

・後半部の三連符のリズム感を出す。

・左手が音を3つ弾く間に、右手は音4つ弾くところの左右の指の打鍵のタイミングを丁寧に合わせる。

・休符のところでは指をあげるだけでなくペダルも外して無音をしっかり聴かせる。

 

などです。 

 

べートーベンを弾いていて思うのは、曲の構成が実によく考えられているという事です。

 

モーツアルトは半音間違えただけでもうすべてがぶち壊しというような、天才だけが作れる完璧な調和の世界です。

 

一方、ベートーベンは曲の構成がしっかりしているので、いいかげんに弾いても本人はその不出来の程度がわからないところがあります。しかし、そのいいかげんな演奏はやっぱり下手に聴こえるのです。そこが恐ろしいところです。そこを先生に指摘されて直していくと、自分でもびっくりするくらい良くなってきます。

 

べートーベンを弾くと、楽譜という完成した型があって、そこに自分の技量を注ぎ込んでいくような感じがします。奏者の技量に応じて何かは出てくるけれど、技量が未熟であるといろんなところが未完のまま残っている。けれど、そこに手を加えていけばどんどん良くなってくる。だからこそ先生について習う価値があるのです。そして、新しい発見が尽きることがありません。一生愛奏できる素晴らしい音楽です。

 

それをつくづく感じたのはベートーベンの「第九」を歌った時です。音楽だけでなく、シラーの詩にメッセ―ジを込めて壮大な宇宙をゆるぎない構成で描き切っています。第4楽章の合唱の素晴らしさを語りつくすことはできません。その思いの一部を令和元年8月11日出版の「人生100年時代を楽しむ おとなの歌の始め方 1万人の第九とゴスペルライフの感動の舞台へ行こう」に書いています。

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第九の合唱にハマって何十年も歌い続けている人々が沢山います。その人たちの気持ちはとてもよくわかります。

 

モーツアルトは毒と紙一重の蜜があふれるエデンの園で、一度入ったら出て来られません。一方、ベートーベンは天空に至る知恵の木で、鍛錬を重ねてどこまでも登り続けていきたくなります。登れば登るほど見えるものが素晴らしくなってくるのです。

 

 

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