「正倉院の世界」の展覧会@東京国立博物館(上野)を見て思ったこと

正倉院展。御即位記念ということもあって、シニア層を中心に大人気。平日の昼間で平成館の入り口の前に200mぐらいの行列。並んでから入るまで60分かかった。

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展示室に入ってすぐに聖武天皇の本物の直筆がある(雑集という正倉院宝物)。端正ななかにも優しさを感じる文字。楷書なので読めるのに、何ぜか読んで行けない不思議な威厳を感じた。あの聖武天皇の直筆ですよ。その重みに圧倒される感じがした。和紙のくすみ具合にも1300年の重みを感じる。

60分並んで入って、中も混んでいるので、気がせいて先に進みたくなる。しかし、後から思えば、会場でもらえる出品目録をじっくり見て、どこに何があるかをしっかり把握してから見るほうが良かったと思う。目録には、国宝、重要文化財正倉院宝物の分類が記されているが、国宝のなかで、あまり印象が残っていないもの(海磯鏡)がある。そうと事前に知っていれば、じっくり見たのになあ、と思う。

私が思うに、工芸品として素晴らしいものは概して正倉院宝物である。ポスターに載っている琵琶や螺鈿の皿は正倉院宝物である。国宝は歴史的に重要なものなんだろうけれど、見た目が地味なんだろうなあ。

さて、ハイライトの琵琶である。ギタリストである私としては、これを見るために来たと言ってもいい。人だかりがしているガラスケースの中に琵琶がひとつ納められている。ああ、なんて美しいんだろう。フレットは5つしかないのか(これでは出せる音階はかぎられるなあ)。弦は5弦。駒止めに向かって末広がりになっている。駒止めのところの弦の様子を見ると、まるでクラシックギターのような弦の止め方だな。ボディーは一枚板に見える(レスポールか)。板の色からジャカランダを想像するが目録を見ると紫檀だな。まてまて、表だけ見て感動してはいけない。裏に回ろう(ルーブルミロのビーナスだって、背中をみて感動したじゃないか)。人垣について反時計回りに裏に回る。ああ、なんて美しい螺鈿なんだ。まるで昨日作ったみたいだ。でも、こんなことってあるんだろうか。そこでふと思ってパネルの解説を読む。おお、この展示品は正倉院が素材から再現した模造品なんだ(2019年完成)。弦は当時の美智子皇后が自ら紡いだ絹糸を束ねたものであるとのこと。なるほど、そういうことか。本物は前期展示(11月4日まで)のみ。残念。でもこれはこれで現代の工芸として素晴らしいなあ。さらに凄いのはこの琵琶は演奏できること。その音を録音したものを会場で流していた。5弦なので、5つの音が聴き分けられて、耳にとどめたはずが忘れてしまった(絶対音感があればなあ)。

その横には、今度は本物の4弦の琵琶があった(この4弦琵琶の展示は後期展示のみ)。本物として歴史の重みをかんじるなあ。これはボディーが空洞になってる(セミアコか)。弦の余りを駒止めのところで束ねているのは、ギターとは弦の張り方が逆なんだろうか。こっちはフレットが4つ。うーん、同じ琵琶でも違う楽器に思える。

それと、まさかと思った蘭奢待(らんじゃたい)の本物(正倉院宝物)が見られた。NHK大河ドラマなどにも出てきたが、天皇家の最高の香木。これをまず足利尊氏が切り取り、そのすぐ左側を織田信長が切り取り、そして明治天皇がそこからずっと左の先端に近いところを切り取っている。誰がどこを切りとったかがわかるタグが付いているのでそれがわかる。何とも言えない歴史の生き証人のような香木なんだなあ。

それ以外にも残欠と言われる、布の端切れが多数展示されている。染物美術が好きなひとはたまらないだろうな。聖武天皇が実際に着ておられた衣服の端切れや、吹かれた簫(笛)、打たれた碁石もある(飾り碁石であまり打たれた形跡がないらしいが)。その他お面や国宝の竜首水瓶もある。

最後は撮影も可能な場所になっていて、宝物保護の活動の紹介や撮影可の模造品が置いてある(簫など)。最後に森鴎外が歌った歌が掲示されていた。「燃ゆべきものの燃えぬ国」。これが日本文化の本質だな。燃えないように石で作る他の文化の対極にある。

 

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 #正倉院 #国立博物館 #蘭奢待 #琵琶 #螺鈿 #正倉院宝物 #国宝