ベーシックインカム。AIが仕事を奪う前に、コロナが仕事を奪い続けるのであれば適用を早めざるを得ない、とも思えてこの本を元に考えてみた。

(ユニバーサル)ベーシックインカム(BIと言う)。「国民全員に(0歳児にも億万長者にも)同額のお金(例えば毎月7万円)を政府が配る」という考え方。

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こんなことを言うと、

金持ちにまでお金を配ってどうする。

その財源は国債だろ、国の借金が増えて国家財政が破綻する。

働かなくてもお金がもらえるなら国民の勤労意欲がなくなって国が衰退する。

と散々な反応が返ってくるのが普通だろう。

国民は勤勉に働き、収入を増やすことで幸せになり、それが国家の繁栄につながると大多数の国民は思っているだろうから。

さて、今回の世界的なコロナ騒ぎである。国家が飲食業、娯楽業などに休業を命令(欧米)したり、要請(日本)したりすることで、国家権力によって働く機会を奪われた人が大勢出た。アメリカの失業申請は3300万人を超えた(勤労者の5人に1人を超える)。日本でも飲食業、個人商店などを中心に悲鳴が上がっている。

一方、日本の企業(主に大企業)で働く社員は、雇用調整助成金厚生労働省の失業保険が基本原資)で守られることが早々と決まっている。なので、休業状態にあっても、失職の不安は少ないんだろうと思う。

会社自体も今までが健全経営であったところは、緊急融資をうけて事業をつなぎ、今までの日常がかえって来てビジネスが戻って来れば何とかなるはずだ。航空や観光などの戻りが遅いと思われる業界は、大変な時期は続くだろうが、国からの金融支援は手厚いだろう。

このように、日本と言う国(自民党政権)は、ひとりひとりの個人ではなく、個人が属する団体(企業や農協など)を支援することで、それに属する”働く”個人を間接的に守るというやり方をしてきた。

それに対し、組織に属さない個人事業主(請負業務契約で働くフリーターやギャラ制の芸能関係をを含む)や小規模事業者を救う手段として、経産省の持続化給付金(個人事業主は最大100万円)がある。

そして、これを得るには確定申告(白色申告でもいい)の昨年実績が申請には必要となっている(収入減の証明が必要なので)。

つまり、コロナの被害に対して国が救うのは「所得税源泉徴収者を含めて、去年の収入を国に報告している働いている人」だけというのが基本的な支援の立て付けになっていた(今年レストランを開業した人は支援されない)。

このやり方では、働いてはいるものの、確定申告をしていないバイト生活者(大学生を含む)や、歌舞伎町関係などに多いと言われる日給生活者(いろいろあるので確定申告をしていない人が多い)を救えないのである。

それに対して、今回、国家はすべての個人に対する直接的な支援である特別定額給付金総務省予算)を決めた。一人10万円。ただし給付は世帯単位である。

https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/gyoumukanri_sonota/covid-19/kyufukin.html

これは組織に属さない人を厚い支持層として持つ公明党自民党に実行を迫った面があるものの、働かない人も含めて収入額の区別なく給付する(住民登録のある外国人を含む)というのはまさに「画期的」なことだと思う。

これは、現状では1回のみになっているが、これが継続されれば、まさしくベーシックインカムが実現されることになる。

ベーシックインカムの実現性】

さて、ここで話はベーシックインカム、特にその財源の話をまとてみよう。

今回の特別定額給付金の予算規模は13兆円である。原資は国債の増発である。国家予算がザックリ100兆円であることを考えると、予算的には大きな施策である。これを毎月配るとすれば、年間150兆円規模になり、かるく今の国家予算を超える。なので、そんなことはできない、と大抵の人は考える。

これをやるのであれば、国債の増発か、大増税(資産課税や所得税累進税率の傾斜をあげる)で富裕層にご負担願うしかない。前者は国家財政破綻論者、後者は成功者を罰するような税制は経済の活力を奪うのでいけないという新自由主義者の反対にあう。

一方で、「格差」という言葉を日本で流行らせた張本人ともいえるトマ・ピケティを代表として、平等(機会の平等だけでなく、結果の平等を含む)を大切にする人々(例えば米国民主党左派)は、富裕層への増税や、国家財政の赤字を気にしないMMT論を根拠にして、国による(中央銀行を介した)通貨発行量を増やし、社会福祉の充実を図る大きな(予算の)政府を志向している人もいる。

その中にアンドリュー・ヤンのような、ベーシックインカムを唱道する人々もいる。

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 【ベーシックインカムの財源確保策】

 さて、本書に戻ろう。

まず、著者は一人、毎月7万円の給付を提案している。7万円というのは死なないための最低保証という意味で、この給付があるためにかえって働く意欲が湧くと言っている。

例えば、バイトでも月10万円稼げれば、合わせて17万円で一応の生活ができるだろう。そうであれば、プロを目指すストリートミュージシャンや、演劇系の人も夢を追い続けることができると言っている。

子供2人の世帯であれば、毎月28万円が給付され、夫婦で月20万円を稼げれば、月収48万円で、まあまあの生活ができようになる。こどもが4人いれば、BIは世帯で毎月42万円になる。子供は打ち出の小槌のようなもので、べーシックインカムは強力な出生率向上のインセンティブになるだろう。

BIと生活保護と決定的な違いは、収入があってもBIは減らされることがない。なので、働くことを阻害しない。

現状の生活保護は受けるための審査が厳しく、不正受給を防ぐための行政側の多額のコスト(人手、調査)がかかっている。本当にそれを必要としている人に届かないことがある反面、一旦受給が決まると、それは働かない限りずっともらえて、働いて収入を得ると生活保護費(一説には月額32万円)が減額される。

なので、一旦生活保護に入ると、働くモチベーションがなくなってしまうという大きな弊害がある。

著者は、BIを導入して生活保護の仕組みを失くす、あるいは病気で働けない人などに限定するという行政コストの削減も視野に入れて提案している。

次に、ベーシックインカムを給付するための原資について、著者は「負の所得税」という考え方を紹介している。給付金付き税額控除という穏やかだが、わかりにくい説明の仕方もある。

月額7万円のBIをするには、年間100兆円が必要だが、BIの導入で代替される雇用保険や、生活保護費、老齢年金などもろもろで36兆円の行政出費をなくすことができるので、差し引き64兆円の財源が必要になる。

これを所得税増税で全部賄おうとすると、単純には所得税率を25%上げることが必要になる。これは年収400万円の人には、100万円の増税に見えるが、年間84万円のBIを貰っている(これを国民全員が年間84万円の負の所得税を払っているととらえ直す)ので、実質は16万円の増で済む。ところが、妻と子供が2人いればその3人分のBIとして年間252万円もらえるで、世帯収入は236万円増える。BIの導入に文句はないだろう。妻がパートで年100万円稼げば、それは手取り75万円にはなるけれど。

年収1200万円の人は、300万円の増税(BI給付を考慮すれば実質216万円)になる。単身ではつらいが、妻と子供2人がいればそのBI(計252万円)があるので、世帯では36万円の実質所得増である。

単身の高収入者にはつらい制度だけれど、専業主婦と子供2人で年収1200万円ぐらいまでの、昭和の時代の絵にかいたようなサラリーマン世帯までには、BIと所得税率アップの組合わせは支持されていい仕組みに見える。

なので、昭和の家庭像(専業主婦と子供2人)が好きな、自民党保守派にはBIに対する支持が得られそうな感触がある。実際、負の所得税は維新の党のマニフェストにも「給付金付き税額控除」として記載がある。

BIは個人別に給付されるので、DV夫から逃れて、子供一人を連れて家出した元妻も月14万円が給付される。なので、女性がこれによって家に縛り付けられるわけではない。(狭い意味の負の所得税は稼いでいる夫にしか給付されないので、その違いには留意しておく。)

所得税増税だけでなく、これも金持が嫌がるが、相続税や資産課税強化を組み合わせる考え方もある。

いずれにしても国債に頼らない、増税と抱き合わせのBIは単身富裕層以外には賛成が得られそうに思う。

今の所得税最高税率は45%だけれど、皆がいい時代だったねと懐かしがる1970年代はそれが75%であった。そのこと思い起こすと、高額所得者の所得税率が70%でもべつにいいんじゃないの、とうのが庶民感覚だね。

大企業経営幹部クラスで、年収4000万円の人は、子供が3人いたとしてもやってられないよね、とは思うだろう。

これに対する対策は、経営幹部には金銭報酬でなく、現物(社給の高級車の無償貸与、高級社宅の低額貸与)や役得(交際費枠の拡大:法人カードの個人使用の黙認、会社ゴルフ会員権の個人利用)で報いることになるだろう。これも昭和の復活かな。

法人カードで銀座のクラブで豪遊するのが出世のあかしではあまりにみっともないが。企業倫理とのバランスが問われるね。

世の中を変えるには、革命なんていらない、税制を変えればいい、の典型になる。

一方で、著者はBI原資を税金に頼らず、貨幣発行益を原資とするBIを提案している。

貨幣発行益と言うのは、貨幣を発行することで得る利益のことである。著者によれば、現状では、市中銀行信用創造をして預金通貨を創造することで、貨幣発行益は銀行によって独占されているという。著者は、これを禁止し、政府が貨幣を発行して、それを国民に直接BIの形で届ければいいと言っている。

これによって、今までのお金の流れが、中央銀行ー民間銀行―企業―家計 であったものを 中央銀行(国家)-家計ー民間銀行ー企業 に変えることを主張している。

国が直接国民にお金を配るのはヘリコプターマネー(お金をヘリコプターからばらまく)と言われることもあるし、最近毀誉褒貶の激しいMMT(Modern Money Theory、現代貨幣理論)でも、政府はインフレにならない限りジャンジャンお金を刷っていいと言っているみたいだ(ここでは立ち入らない)。

【韓国の仕組みはいいな】

BIとして国家の配るお金について、今日(5/11/2020)感心したのは韓国の仕組みである。

朝のBSニュースで見たのだが、韓国政府は1世帯最大87,000円分のポイントを個人(世帯主)のクレジットカードに給付する。これは現金と同等に使えるが、有効なのは今年の8月31日までで、使える場所も地域の小売店などに限定されるという(パチンコもできず、アマゾンで使えず、株も買えない)。

これは政府発行のデジタルポイント(マネー)を直接国民に給付し、それが地域での生活上の消費に確実に使われるという意味で、個人の生活支援と、小売業などのコロナ被害事業者を救う両方の意味がある。

お金は実体経済の血液である、と言う使い方の好例に見える。

日本の、行政コストばかりかかるアナログの地域振興券を、合理的にデジタル化したようにも見える。

日本もマイナンバーカードがこういった機能を持って、(世帯主にでなく)ひとりひとりに政府ポイントを給付するようになれば、BIも楽にインプリできるのになあと思った。お金同等の政府ポイントと言うのがミソで、中央銀行の貨幣発行権と直接バッティングしないように実行するところが賢い。

 【まとめ】

ポストコロナ、ウィズコロナの生活変容の議論がよくなされているが、国家が権力を用いて国民の私権を制限せざるを得ない時には、その補償をタイムリーに行うことが伴っていないと国民の支持がえられない。

そのためにも、韓国方式のような、政府の期間用途限定デジタルポイントを毎月マイナンバーカードに給付するようなBIの実行が意外と早く実現するような気がする。

その財源はここに述べた増税と政府ポイント発行益(換金の裏づけは国債かな、国家財政の議論はここではしない)の組み合わせになるような気がしている。

長くなったので、今日はここまで。

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