ホーキングのビッグ・クエスチョンの答えを味わってみた。1000年先の未来を見た。

ホーキングのビッグ・クエスチョン<人類の難問>。しっかり読んだ。ホーキングの答えから私が読み取ったものを綴ってみた。

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①神はいるのか

神がいなくても宇宙物理学は困らない。宇宙の科学法則を神と呼ぶのは構わない。

 

②宇宙の始まり方はどうだったのか

宇宙の始まりを数学的な困難(密度無限大になる特異点)なく記述しようとすると、時間と空間の境界をなくすやり方がある(虚数時間)。このやり方において、時間という境界がないのであれば、宇宙が始まる時(t=0)もない。

虚数時間を導入すると、沢山の宇宙が存在し得る可能性が式の上では出てくる。ただし、それが人間が認識できる形で存在するかどうかは別の話。

この意味において、宇宙の始まり=天地創造(t=0)の概念がなくても宇宙の存在は説明できる。

 

③宇宙に知的生命は存在するか

我々が出会える確率は限りなくゼロに近い。

この答えは、生命とは何かという定義にもよる。遺伝的な子孫の生成と代謝機能(必要なもの取り込み、不要なものを出す機能)を持つものを生命と考えれば、コンピュータウイルスだって生命と言える(ホーキングの考え)。

そういった、生命体が知的になるのが進化の道として合理的かどうかは定かではない(知的になることによってその生命種の破滅が早まることもあり得る、人間のように)。

人間のようにDNAと高分子に基礎を置く生命体は宇宙間旅行に耐えられない。そういう生命体は機械的で電子的な要素に基礎を置く生命体(シリコン半導体などの上で動作するアルゴリズム)に置き換えられていくかもしれない。

宇宙の歴史138億年のなかで、生命体の基礎ができたのは35億年前。そういった長いスパンで知的生命が出来上がると考えると、何百‐何億光年も離れている他の恒星系からやって来る知的生命体に我々が会う確率は極めて低いだろう。

 

④未来は予言できるか

量子力学の不確定性によって、答えは「ノー」。

 

ブラックホールの内部はどうなっているか

ブラックホールには毛が三本(質量、電荷角運動量はえている。

ブラックホールはその表面積に比例するエントロピーを持っている(絶対零度ではない)。それゆえ、輻射があってエネルギーを失い、いずれ蒸発する。その時にブラックホールの中にあった情報は永久消滅するという困った問題(パラドックス)が起こる(これがホーキングの残したブラックホールに関するビッグクエスチョン)。

 

⑥タイムマシンはできるか

人間が乗って移動するマシンという意味ではできない。

光速より速い宇宙船で未来に行くことはできない。光速に近い宇宙船で旅行して帰ってくると、自分だけが年を取っていない浦島太郎にはなれる(特殊相対性理論)。

ブラックホールの底どうしがつながったワームホールの作る時空の曲がり(一般相対性理論)をつかって時空のショートカットを通り、(理論的には)未来に行けるかもしれない。それを逆にたどれば、過去に行けそうに思えるが、そうするためには負の質量と負のエネルギーが必要になる。

ただし、人間の乗った宇宙船で、ワームホールを通りぬけられるモノは現状ではありえない(映画インターステラはワームホール内を宇宙船で移動した。私のコメント)。

ファインマンの言うように、宇宙の歴史はただ一つではない(マルチバース)が、我々が他の歴史(自分の過去)の中に入るすべは現状ではない。

過去に戻って両親を殺すこと(SFのテーマ)はできないという時間順序保護仮説があると思われるが、時空が11次元であるとするM理論超弦理論の統一的形態)が示す丸まった次元を使えば何かできるかもしれない(三体というSFのネタばれです。私のコメント)

 

⑦人間は地球で生きていくべきか

1000年のスパンでは、人間は地球外に出ざるを得ない。

地球温暖化人口爆発、核戦争の可能性などを考えれば地球はあと1000年は持たない。

人類が宇宙に行って生き延びるオプションも考えるべき。その意味で太陽系以外の恒星系の探索に今踏み出すべき。

突然変異というゆっくりした進化に頼るのではなく、遺伝子編集をつかって人間をデザインすることはいずれ行われる。そういう形で人間の複雑さは増していくので、どこかの高度な文明状態で固定されるようなスタートレックのような世界にはならない。

コンピュータが知性を持って、コンピュータがコンピュータをデザインできるようになるとその性能向上は指数関数的で凄まじいものになる。

千年のスパンで見れば、生物学的なもの(遺伝子改編される生身の人間)と電子的なもの(知性をもつコンピュータ)の両方で複雑さが急速に増大する未来がやって来る。

 

⑧宇宙に植民地を作るべきか

つくるべき。

人類が宇宙に広まるために、2050年までに月に基地を設け、2070年までに人を火星に着陸させる目標を掲げたい(イーロンマスクのスペースX計画に似ている)。

月と火星がスペースコロニーに適している。

太陽系以外の他の恒星系も探査すべき。その第一歩として、多数の位相同期レーザーが生成する10GWの光の圧力を帆に受けて光速の5分の1のスピードで進む数グラムの宇宙帆船(ナノクラフト)を実現する。これは1時間で火星に到達し、20年でアルファケンタウリに到達する。これが、銀河系外のハビタブルゾーン(人間が棲める場所)を探す嚆矢となる(「ブレークスルースターショット計画」)。

 

➈AIは人間より賢くなるか

なる。

画像認識や囲碁などの一つの仕事だけを行う専用AIでない、汎用的なAIができて、そのAIが自らを再設計できるようになると、その性能は指数関数的に向上して驚異的なものになり、人類はそのAIにとって代わられる。そしてそのようなAIは自分自身の意思をもつようになり、人間の意思と対立するようになる。

そういう意味で、人間がAIを制御できることを担保すべく(人間に不都合なAIになりそうなら、そうなる前にそのAIの電源を人間が切ることをAIに邪魔されないようにする)、AIの安全性(軍事応用を含む)をしっかり考える仕組みや組織が必要である。

コミュニケーションの未来は人間の脳に電極を付けてコンピュータとコネクトして行われるものになるだろう。それは人間の頭脳がAIによって増幅されることを意味している。

量子コンピュータは人類の生物学的な面まで含めて、いっさいを変えるだろう。

知能とは変化に対応できる能力のことを言う。

 

⑩より良い未来のために何ができるのか

それは2つあって、

1)人類が生きていくのに適した惑星を求めて宇宙を探査する事。

2)地球をよりよいものにするために人工知能を建設的に利用すること。

大切なのはあきらめないこと。想像力を解き放とう。よりよい未来を創っていこう。が、結言。

ホーキングが夢見るのは、核融合がクリーンエネルギーをふんだんに供給してそれを使った電気自動車が走る世界を見ること。

 

【あとがきなど】

お嬢さんである、ルーシーホーキングさんのあとがき(ホーキングの葬儀のことが書いてあってちょっと泣きそう)、盟友キップソーンの解説と青木薫さんの訳者あとがきも素晴らしい。

キップソーンは重力波の検出で2017年のノーベル物理学賞を受賞しています。

青木薫さんの翻訳は、しっかりした科学知識に基づいているので、いつも安心して読み進められます。素晴らしい。

 

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