このブルームバーグの記事を読んで、DeFiの世界での暗号資産の取引は、イーサリウムのセカンドレイヤーで金融技術を駆使したスマートコントラクトを使って異次元的に凄いことをやっているのに驚いたというお話。

金融のプロであるFBの友人が、下記のブルームバーグの記事をFBで紹介してくれた。

www.bloombergquint.com

それを見た私は、タイトルから内容を推測して、甘いコメントをしたところ、その友人は、私が読み取れなかったこの記事の核心部分に気づかせてくれる、丁寧なコメントを返してくれた。

そこで目の覚めた私は、この記事を全部和訳をしながら、イーサリウムや金融の言葉の意味を調べつつ、内容を理解し、なんだか凄いことになっているなあと思った。そのことを書いてみたい。

暗号資産の取引は、一般には、コインべースのような販売所(日本ではビットフライヤーが大手かな、そのイメージはビットコインを円で売り買いするようなこと)で行われていると思うのが普通だろう。

ところが、最近では、DeFi (Destributed Finance)と言われる世界(Crypto World)があって、コンピュータのプログラム(正確には、イーサリウムの中に書き込まれたスマートコントラクト)が仮想通貨間の取引(例えばビットコインをイーサリウムに換えるなど。ビットコインを直接ドルのような法定通貨に換えるのはないんだと思う(未確認))を行っている。これが驚きの一つ目。

そして、そのDeFiの中では流動性のプールと言われるしくみがあって、暗号資産を、いわば、暗号資産間の取引に使える仮想コイン(トークン)に換えることができる(流動性=現金のようなもの)。

これは天才的だ。以前、「ビットコインは暗号通貨か暗号資産か」という議論があったけれど、通貨への換金性が低いと見れば資産だ。そういったビットコインのような暗号資産は有象無象を含めて山ほどあるが、その間の取引に使える仮想通貨(ビットコインはもともとこう呼ばれた)を流動性のプール(このプールという言葉が絶妙)という形で発明している。これには参った。

これがないと、ビットコインとイーサリウムを現物の物々交換で取引するような感じになってしまうので、値段や量の折り合いがつかず取引できない事態にもなり得るが、一旦それぞれを流動性トークン(仮想通貨が買える現金のようなもの)に換えてしまえばそれがない。なので一気に仮想資産の売買が(DeFiという世界の中では)やり易くなる。

さらに驚くのは、こういった仮想通貨(流動性のプールのトークン)にドルで売り買いできる値段までついている。

仮想通貨Compound(コンパウンド)とは?DeFiの始め方や仕組みを解説 | InvestNavi(インヴェストナビ)

この記事ではCOMPという仮想通貨(流動性トークン)は2020年9月で272ドルだと言っている。

これにはびっくりだ。デジタルデータの媒介パラメータに現物値段がついている。人の欲望はとどまることを知らないという事か。確かに暗号資産に現物値段があるのであればそれを媒介するデータにも値段があってもいい。

さらに、DeFiでは、自分の暗号資産を貸し出してその金利を取ったり、または自分の暗号資産を質に入れて、現金化(流動性プールのコインを手に入れる)こともできる。

これはDeFiの世界に、一般金融で使われるスワップやレポ(Repurchase)の技術が導入されていることを意味する。つまり、金融の技術と暗号資産の技術(ブロックチェーン)の両方を巧みに操つる数理のエリートがDeFiの世界を跋扈している。これは脅威だ。

でも、DeFiを誰かが管理しているとは言わない。管理者がいないのがDistributed Financeの本質だから。あるのはコードとしてのスマートコントラクト。ここで定義されたとおりに Crypto WorldのFinanceが執行されてる。

これは神の見える手だ。スマートコントラクトのコードは誰でも見ることができる。これがオープンなブロックチェーンの世界だ。

さらに、驚いたのは、こういった取引の規則を書き込んだスマートコントラクトをイーサリウムのセカンドレイヤーで行っている。

これには参った。金融の本質である共通時間の支配を逃れ、自分たちの時間軸を創り出している。これは実はトンデモないことなんじゃないかと思う。

私は、金融の本質は時間を金で買う事だと思っている。2000万円貯金出来たら家を買おうとするのであれば、家を手に入れるのは20年後かもしれない。ところが2000万円をローンで借りれば、その日にでも家を手に入れることができる。20年という時間を前に倒して、幸せを早く手に入れるのが金融の力。時間を前に倒す力の利用料として金利を払う。何と美しい話だろう。

ブロックチェーン技術の難点の一つは、ひとつのブロックに書き込めるデータの上限が決まっていること。

例えば、ビットコインの例で行くと、10分に一回、1MB分のブロックしか追加できない。1件の取引を記述するデータ量が、仮に500バイトだとすると、10分間で2000件、1分で200件の取引しか決済できない。これでは、セブイレブンが日本中の全店舗でビットコインの支払いだけを受け付けるようにしたら、ブロックに書き込めない支払いが溢れてビットコインは事実上決済の手段として使えなくなる。

これを防ぐ技術が(イーサリウムの)セカンドレイヤー技術だ。

https://bitcoin.dmm.com/column/0193

メインのブロックチェーンとは切り離されたところで特定のデータ交換の一群を処理しておいて、その結果だけをメインのブロックに書き込むようなことだ。例えば、日米間の送金が100本あったとすると、それを直接メインのブロックに100個書くのではなく、その100本を束ねて入出金を相殺した1本の結果だけをメインに書くような事かな。

DeFiの世界では、このセカンドレイヤーの技術を提供しているのはポリゴンテクノロジー社だそうだ。

これで何ができるかというと、例えば、2021年5月19日の水曜日に起きた、暗号資産(ビットコイン)の大暴落のような時に、通常の暗号資産交換所は、売りと買いの希望値段と量があわないと売買が成り立たず、売買不成立で時間が無駄に過ぎたり、売り注文の件数が爆発的に増えてシステムが追いつかなくなったり、自分が希望する時間内に希望値段で売買することができない。

これが、DeFi(スマートコントラクト)であれば、以下のような妄想が湧く。

例えば、ビットコインがひどく暴落している時でも、あらかじめビットコインがいくらになったら流動性コインに換える、としておけば、BTCの相場の急落の影響は緩和できる。そして、価格が暴落していない別の暗号資産をアルゴリズムで選んで、その暗号資産を、その流動性コインを使って、何日以内に買うとしておいてもいいだろう。この売買をセカンドレイヤーで行えれば、リアルタイムで相場がどうのこうのという事と切り離してスマートコントラクトがあらかじめ決めた規則で値決めして、納得づくの売買ができるかもしれない。

これはあくまで妄想なんだけど、セカンドレイヤーのスマートコントラクトで(いわゆる相場とは切り離れて、かつ内部の流動性プールや最新金融技術を使って)独自の時間軸で独自の値決めの仕組みで動作するスマートコントラクトが作り込めるのであれば、世界は変わるなあと思うのです。

ビットコインがドル換算値段で今いくらだ、買っておくと値が上がって儲かるかな、なんて視点で暗号資産を見るのではなくて、デジタルな世界で数字で表現されたものがどのような仕組みで安全に交換され、その結果が保存されるのかという視点と、その安全に保存されるデータが、なぜ通貨換算で価値をもつ(ビットコインにドルの値段が付く)のかを冷静に弁別してみること。そして、DeFiの世界に最新の金融技術が持ち込まれ、デジタルな資産の流動化と交換に関して異次元の進化が起きているかもしれないことには注目していく必要があるだろう。