二期会のモーツァルト「魔笛」(宮本亜門演出)を東京文化会館大ホールで観て思ったこと(2021/9/9)

モーッアルトの「魔笛」(K.620)。モーツァルトが亡くなる1791年に作曲された最後のオペラ作品(ジングシュピール)。

2幕で2時間40分程度の作品。

f:id:yoshihirokawase:20210910100743j:plain

今回初めて観た。すべてにモーツァルトが溢れてていて、素晴らしい。プロジェクションマッピングを使った宮本亜門の斬新な演出も良かった。

魔笛」が描くものについては、いろいろ言われているのは知っている。今回、私が理解した話の本質は簡単に言うと次のようになる。

自然に恵まれ本能のままに生きる世界(夜の女王と鳥刺し男のパパゲーノが生きている世界)とザラストロが支配する、徳と叡智の力よって人間を進歩させる啓蒙的な世界を、タミーノとパミーナが、ザラストロの与える試練(しゃべらない、自然の与える火と水の恐怖を克服する)を、自然を代表する「魔笛」の力を借りた二人の愛の力で克服することで、この2つの世界に融和的な橋を架けた。

となる。

一番驚いたのは、ザラストロは実はとてもいい人だという事。ザラストロは徳と叡智だけの世界では冷たい管理社会になることはわかっていて、このままでは目指している復讐のない愛の溢れる世界は訪れない危機感があった(多少勝手読みしてるかな)。それを打破するためには自分の世界にない何かが必要だとわかっていて、男子のみの徳と叡智の世界に、皆の反対を押し切って女性のパミーナを受け入れ、タミーノとともに炎と水の自然の恐怖を克服させる試練を与え、それを二人に「魔笛」による自然の力の支援を得た愛の力で克服させることで、自らの世界を一段と高めようとしたことだ。

それがよくわかるのが、このアリア、「この聖なる神殿では」だ。バスの歌うアリアで最高峰なんじゃないだろうか、と思えるくらい素晴らしいし、歌詞の内容も濃い。

www.youtube.com

こんな勝手読みでは、わからないと言われそうなので、少しあらすじ書いてみる。

夜の女王は、娘のパミーナをザラストロに捕えられてしまった。そこで、夜の女王はタミーノ王子にパミーナの救出を依頼すべく、魔法の鏡に映ったパミーナの美貌を見せてその気にさせ、魔法の笛(魔笛)を救出のための援助道具として渡す。

この魔笛は、夜の女王の夫が作ったもので、これを吹くと、動物たちや人間が喜んで踊り出す不思議な力がある。そして、夫はザラストロに殺されている。そのため、夜の女王は復讐に燃えている。

なので、夜の女王は、第2幕の冒頭で、娘のパミーナにナイフを渡し、これでザラストロを殺せと命じる。この場面が、「魔笛」で一番有名なアリア、「復讐の心は地獄のように胸に燃え」だ。これは「夜の女王のアリア」とも言われて、コロラトゥーラ・ソプラノのベンチマークのようになっている曲だ。

www.youtube.com

この曲が派手だから、夜の女王が主役に思えるけれど、そうではなく、主役はその娘のパミーナのソプラノ、タミーノのテノール、次来るのが、バスのザラストロ、その次がバリトンのパパゲーノだと思う。そして、タミーノに同行する鳥刺し男パパゲーノには鈴が渡される。

パパゲーノと言えば、この曲「おれは鳥刺し」

www.youtube.com

昔、クラシックギターを弾き込んでいたころ、F.ソルの「魔笛の主題による変奏曲」を一生懸命練習していた。それが私の最初の「魔笛」との出会いだったと思うが、その主題とはこの曲だと思うんだけれど、ソルの主題と似てはいるけど同じではない。まあ、モーツアルトとソルの両方が楽しめていいかな。

www.youtube.com

第2幕の最後の方に出てくる、パパゲーノとパパゲーナとの2重唱も美しい。

www.youtube.com

最近オペラでは、ベルディもそうだけど、2重唱の美しさに目覚めたところだ。

アリアで言えば、パミーナのアリアも何曲も素晴らしいものがある。パミーナの2重唱もいいものがあった。

www.youtube.com

さて、あらすじに戻ると、第2幕で「夜の女王のアリア」が終わると、タミーノとパパゲーノは3人の童子に連れられてザラストロの神殿に向かう。

この3人の童子は、多分9歳から13歳ぐらいまでの3人の男の子だけれど、ボーイソプラノの美しいハーモニーで何曲も歌うし、劇の進行の上でも大切な役割を担っている。大拍手を送りたい。

そして、タミーノが童に案内されてザラストロの神殿に向かう時に、3つの扉の内の一つを選ぶ試験が行われる。

その3つの扉に書かれているのは、正義(Gerechtigkeit)と労働(Arbeit)と芸術(Kunst)。タミーノは最後に正義(Gerechtigkeit)を選んで、叡智(Weisheit)の世界に進んでいくのが何か象徴的だ。

その後、パミーナがザラストロの部下のモノスタトスにいじめられたり(その後、モノスタトスはこの事をザラストロにとがめられて追放され、夜の女王側に寝返る)、パパゲーノが将来の伴侶であるパパゲーナをザラストロから与えられたりする。

パパゲーノは夜の女王から与えられた鈴をつかうことで、パパゲーナと結ばれるところも象徴的だ。このカップルは子供をたくさん作ろうと歌って(前述のYouTube)、自然のままに生きることの象徴だ(ザラストロは心が広い)。

そして、タミーノとパミーナはザラストロの与える試練を乗り越えて、めでたく大団円となる。

魔笛」。寓意に富むと言われるストーリーも自分なりに咀嚼して楽しめた。さあ、CDを手にいれてしっかり音楽も聴こう。

でも、オペラはやっぱり劇場じゃないと楽しめないんだよなあ。

ああ、次は「ドン・ジョバンニ」観たい。

最後に出演者のリスト。

皆さん素晴らしかった。パミーナとザラストロの歌声に酔いしれた。タミーノのテノール。あんなふうに伸びのある高音域が欲しい。

f:id:yoshihirokawase:20210910120927j:plain