「超訳 ヨーロッパの歴史」を読んで自由主義と民主主義などについて考えた。

超訳 ヨーロッパの歴史」を読んだ。

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丸善あたりでは売れているようです。結論を言い切った文章を連ねているので、特に前半は読みやすい。欧州を、ギリシア・ローマからEUまで、文化、言語、制度、主義、宗教などの視点で論じている。

現代では、自由主義と民主主義は同じようなものと誤解されている感じがするが、本書によれば、

自由主義中産階級私有財産を守るために、王権(今の時代なら政府)を制限すること。

民主主義=労働者階級が普通選挙権を持つこと。

がもともとの意味。マルクスが出て来た19世紀後半は、民主主義は共産主義(革命)につながるという見方もあって、自由主義者によって弾圧された。

ここからは私見を述べてみたい。

【リベラルって何だろう】

米国の民主党はリベラル(自由主義者)といわれる。その主張は、多様性への寛容(LGBT、移民など)、福祉・教育の充実、地球環境保護に重きを置き、経済成長より社会全体の底上げと平等(どちらかというと弱者保護)を重視する。本来の自由主義とはまるで意味が異なっている。

民主党内の進歩派(プログレッシブ)は個人よりも社会全体を優先するせいか、社会主義を目指しているいう非難がある。しかし、それは言葉使いがおかしいと思う。

社会主義とは社会の公平さを重視するという意味の言葉ではなく、資産の国有化が基本なので、いくら何でもそれを米国民主党が主張しているとは思えない。今の米国のリベラルは社会全体の底上げのために大きい政府を作りたい。

そのためには予算(お金が)必要で、その原資を得るために、法人と金持に対して増税したい(MMTは一応除外して考える)。それを金持ちと企業が嫌うので、社会主義という言葉で悪いイメージを植え付けようとしているのだと思う。

  【資本主義って何だろう】

資本主義とは法人(会社)が経済活動を行う事。人でもない得体のしれないもの(法人)が人格でもあるかのように信用されて、人からお金を集めて、それを原資に設備を買い、人を雇って設備を動かしてモノやサービスを作って売ってお金をもらう(売上)。

その売り上げを実現するために使ったお金(費用)より売上が大きければ、儲かったという。それはお金を増やしたという事。それが社会全体でうまくいくためには、社会に出回っているお金の総額が一定では、ゼロサムゲームになるのでうまくいかない。

お金の総額を増やす仕組みが必要になる。そのためには、①よその社会から奪う(貿易黒字、海外搾取)②お金を管理する人がその額を増やす(中央銀行のマネーサプライの増加)③お金を死蔵(たんすに隠している)いる人がそのお金を会社に使わせて、その対価を得る(資本投入、投資)などが必要になる。

いずれにしても、「資本主義=お金を増やすこと」なので、成長していくことが運命付けられている。その逆の意味で、成長しなくてもいいから地球環境を守ろう、貧しい人や病気の人を救おうという考え方は資本主義から見ると危険思想で、それを社会主義と呼びたいのかもしれない。

この本によると、進歩という言葉は近代になるまでなかったという。進歩=成長とみて、それを追求することこそ近代に生まれた資本主義の精神なんだな。民主党の急進派(環境、福祉重視)をプログレッシブと呼ぶのはアイロニーだなあ。

 【資本主義の精神とプロテスタントの倫理】

資本主義が来る前は、人の行動の規範は宗教だった。カトリックのように、固定された世界観を守り、それに人々を従えさせるのが根本思想。懺悔し、祈る。天国に召されるよう選んでもらうために、善行を積み、教会に寄進する。教会が神と人の間を仲介する権威になる。お金が増えたら、それを再投資に回すのではなく、教会に寄進する。これでは成長できない。

クリスチャン(プロテスタント)は違う。「世界は神の元で一つになる。みんな一緒に神のいる天空を目ざして行進しよう」と、目指すものに対して行動することを促す。直接神を目指し、教会の仲介を必要としない。プロテスタントの精神はベートーベンの第九のシラーの詩にその本質が歌われている。

誰でも知っている有名なメインテーマの後半の部分

Deine Zauber binden wieder,

Was die Mode streng geteilt.

Alle Menschen werden Bruder,

Wo dein sanfter Flugel weilt.

英訳は(多少意訳、YOU=GOD)

Your magic power bind again

what the mode (world) (is)

strongly divided.

All people will be brothers

where your soft wings stay.

この Was die Mode streng geteilt てカトリックプロテスタントの分断と対立のことを言っているのかなあ。それともドイツ地域の小国分立と対立のことを言っているのか。

もう一つ。合唱団の聞かせどころ

 Bruder ! uberm Sternenzelt

muss ein lieber Vater wohnen.

Ihr sturzt nieder, Millionen ?

Ahnest du den Schopfer, Welt ?

Such ihn uberm Sternenzelt !

Uber Sternen muss er wohnen.

英訳は

Brother, over the star tent,

A loving father must live.                                   

You kneel down, millions of people.

Do you feel the Creator (God),

people of the world?

Search him over the star tent!

Above stars he must live.

ここはプロテスタントの真骨頂だなあ。

 「働くことは祈ること」とカルヴァンが言ったことで、資本主義はプロテスタントの信認を得た。働いて(お金を儲ける)ことが宗教的にもOKになった。これが資本主義発展の精神的な原動力になった。

資本主義は本来自由主義者(資本家と中産階級)のためにある。自由主義者プロテスタントになることによって行動規定(倫理)と精神の一致が得られたことになる。

今のアメリカで資本主義をドライブしているのは共和党に見える。そのコアには福音派プロテスタント)がいる。そして、その共和党新自由主義者(ここではマネタリスト規制緩和論者の意味)がいるのは納得できる。今の資本主義は設備と人が金を生むのではなく、金が金を生む金融資本主義になっている。

金の卵を生むかもしれないガチョウを見つけて一杯エサ(金)を食わせるフォアグラ経済だな。目利き資本主義ともいえる。その名人が孫正義氏。でも、自分でガチョウを見つけて育てているべゾスやマスクがいないとね。エサだけあっても経済は発展しない。

自由主義と資本主義は発展のための車の両輪であった】

資本主義は、無産階級が中産階級になれるかもしれないという夢を与え続けられれば、自由主義と両輪となってうまく社会を発展させる。それが日本の昭和30-50年頃の時代。平成の時代の中国はそれに似ているかな。

 【民主主義の居場所はどこ?、日本はどうする】

令和の時代の日本は、無産階級に固定された人々が選挙に行くという民主主義を実行しさえすれば、米国流の欲望で増幅された金融資本主義に染まった自由主義政権(有産階級のための政権という意味)は倒せる。そして米国流リベラルを目指す形はできる。ただし、その受け皿政党はなにかという問題はある。わかりやすい形とアジェンダを野党は作らないといけない。

単に政権を選挙で倒すだけではダメで、既得権者の排除を、税制変更や規制緩和含めて納得性のある形で行い(無理やりやるとそれは暴力革命になる)、費用と効果の面で実行可能な政策を示して推進する必要がある。そうでないと民心は離反し、守旧勢力の逆襲を受ける。

でも、無産階級は、それはめんどくさい。今のままでしょうがない、選挙にもいかないよ。となる可能性も高い。教育や社会の仕組みがそういったマインドセットを植え付けている面もある。今や死語である、「いい学校出て、いい会社入って、いい年金で楽しい老後」というやつだな。

投票率が今の政権を存続させるのは巧妙な「ナッシュ平衡戦略」ですね。某新興政党が、まず投票率をあげようとしているのは全く正しい。「民主主義を実行せよ。それは投票する事。」誰も反対できない。

 【シェアリングエコノミーを基盤とするデジタル社会平等主義は希望の星か】

社会インフラを運営する一部のエリート層を認めた上で、合理的な平等主義、所得の再配分(給付付き所得税=UBI)、地域単位での資産シェアでの利活用+ギグワークによる生活立脚型ニューエコノミ―システムが生活インフラとして出来上がることを期待したい。そのインフラはGAFAでも構わない。だだし、GAFAにはしっかり外形標準課税する。

 そして、お金のために働くという呪縛を取りたい。人としての尊厳が尊重されて、フローで生活が一生回ることで幸せになれるなら、お金をためて資産を作る必要もない。

 これがデジタル社会平等主義。今のシェアリングエコノミ―はそれを目指せると思う。

 資産がなくても安心と幸せを感じる社会の仕組みとマインドセットに変革できると、世の中は低成長だけれど穏やかになる(外敵に攻められない限り)。それがシニアな国家となった日本の姿かもしれない。国家の役割は外敵の侵入の防止。それはローマの時代から変わらない。

 シェアリングベースのフローだけの経済で回っていき、人の一生が成立するならば、資産(ストック)を持ち、それを子供に相続させていくという家族主義も必要ない。それは翻ってLGBTを含めた個の尊重。リベラルだな。リベラル社会平等主義。

 そのためには、フロー経済を回すための仕組み(政府の徴税とUBIの給付を含む)が、永続的な改善の仕方を含めて信頼できることが肝心なことになる。その信認を得続けるのが政府の仕事。それがAI+Big Dataで実現できるという妄想に期待したい。それがデジタルAI政府。ビッグデータをAIが読み込んで民意をデータから行政に反映するのが超民主主義。ダイナミックプライシングならぬダイナムックウェルフェアシステム。福祉はタイムリーなデジタルマネーの給付で行う。

 【道州制はどうだろう】

それは国政というレベルでなく地方自治のレベルでできるはず。教育・福祉・仕事の機会提供・住居を含む生活に関する行政は地方レベルでできる。

北欧のようなせいぜい数百万人の道州制ってできないものか。地域内は(デジタル)地域通貨で生活する。それくらいの変革を考えたい。

シェアリングエコノミ―になると、資産デフレになるはず。お金持ちはそれを覚悟しないといけない。だから、お金持ち=シニア層はなにも変えない現政権支持なのです。

資産の価値の売買でのゲインを重視せず、フローでの利活用だけを見るピュアなフロー経済。それは、ストックは組織(国家でなくていい)が持って、個人はそれを利用するフローだけで生きるというネオコミュニズムだろうか。

それを個人レベルで見て、個人資産なんかなくたってフローで幸せに生きていければそれでいいと、言えるかどうか。

 【シェアできれば個人資産はいらないと言えるかどうか】

そもそも王権=政府を信用しないから個人資産をため込んで自分や家族を守ろうというのが自由主義の根幹だった。なので、フローだけで生きろ言うのは、人の心情としてそう簡単にはいかない。

だから中国共産党は、土地は国家のものだけど、個人は借地権を買えるようにして、それが相続できるようにした。その借地料は形を変えた資産課税だな。賢い。土地は国家のものというのが中国の最大の強み。中国の王はすべてを手に入れる王であった。中世の欧州の王はそうではなかった。

資産の国有化で経済が良くなると思ってやったのが社会主義国家による計画経済。でもことごとく破綻した。計画経済は人の欲望を満たさないので自壊的に堕落する。資本主義は人の欲望を食って成長するので生来的な人の生き方と整合している。中国はそのバランスのとり方がうまい。

国家というのはある意味フィクションのような概念でもある(ユヴァル・ハラリの読みすぎか)。貨幣の発行流通すら国家なしで技術的にはできる。国境に拘るから国境を守る軍もいるし、人や物の流通を管理する大きな政府組織が必要になる。

 【世界全体を見てみよう】

EUは人とモノの壁をなくしたけれど今はつまずいている。その理由は過剰なる移民の流入EU内の地域格差の拡大。その理由の一つは各国家に通貨発行権がないから。イギリスがポンドを維持してEUに入ったのは理解できる。

EU各国が地域通貨を出せると変わると思うけれど、ユーロの体制がそれを認めない。今のままで経済の弱い国が地域通貨を発行すると多分インフレになる。それは発行主体の信用が確実ではないから。

政府というものは、その根拠は別にして、国内外から信用されていることが大事なのです。それが国家というフィクションを成立させるためのすべてといってもいい。

 世界的には大きな勢力となっている、イスラム圏はどうなったらいいのか皆目わからないな。経済よりも宗教の方が大事というのは、私には実感としてわからない。

中国は自らのキングダムを確立する。他国との関係がどうなるのがいいのか、これも難しい。

 【デジタル社会民主主義が現実解か】

北欧は社会民主主義(みんなが納得する高福祉高負担社会)で成功していると言える。それは国家の人口規模が数百万人と小さいのが有効な条件になっていると思う。それをデジタル技術を使ったシェアリング経済(+UBI)への移行と改革と合わせて行うのが、日本の目ざす姿の一つような気がする。

道州制にして行政単位内の人口を数百万人にすることが前提。

そういう意味では地域政党地方自治での大統領型デジタル行政運営の成功例が欲しい。具体的には大阪から東京、その次に北九州地域に期待したい。福祉と年金の予算を道州に一体化して落とす大改革も必要。

 そんなことを妄想するきっかけになる本でした。

 

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