宇宙論を学んだメモ。AdS/CFTとホログラック宇宙論がマルチバース宇宙を拓く

昨日、あるオフ会で宇宙論の話が出て、AdS/CFTとホログラフィック宇宙論のことが話題になった。いろいろ会話したなかで、今まで調べて考えてきたことを纏めておきたくなった。
 今妄想しているのは、次のようなこと。
宇宙そのもの(Dinge an sich)は冗長多次元なもの(ホログラフィ)であり、直接知覚できない。その宇宙を、我々人間は、3次元(+時間)という脳の知覚の仕方で宇宙を参照(観察)するので、その参照光に対して宇宙そのものが返してくれる物質光(観測結果)が我々の観察している宇宙(Ersheinung)である(カントの認識論の物理的解釈)。
これが量子力学で言う観測問題(我々の方法で観測することでマルチバースの中から我々のユニバースが選ばれる。観測しない時にはマルチバースは多次元のDinge an sichとして存在する)。
天国や地獄は、マルチバースの中の、生きている人間とは違う認識方法で観測される他のそれぞれひとつのユニバースなのかもしれない(スピリチュアルな人はそういう認識ができるんだろうなあ)。
重力は、我々が3次元という認識の枠組みを持っているからこそ生じる力であって、空間が曲って認識されることを、もの(すなわち質量:ダークマターを含む)の存在と等価のように認識する。それは、電場の力が、その源となる電荷の存在に対応していること同じように思えるけれど、鶏(場)が先か卵(粒子=量子)が先かの議論のように、どっちが先かの違いがあると感じる。この後先の順番を決めることが時間という概念が発生することの本質かもしれない(空間が曲るから質量が存在する。電荷があるから電場が存在する)
電荷は観測できるが、重力子(グラビトン)はまだ未発見で、仮想上のゲージ粒子である
超弦理論で、重力は5次元空間を伝わると言うのはロマンだなあ。それの考え方が映画「インターステラ―」の中で使われているのがわかった時はちょっと感動した。つまり、重力を使って、他次元にいる宇宙人と情報の交信ができるのです(肉体の行き来はできない)。
4次元の空間認識をする宇宙人がいれば、その宇宙人の見ている(生活している)世界は我々とは違うものになる。
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学びの振り返り
日経サイエンス 量子宇宙(2018 年10月】の読後メモ
読みました。中学生の時にブルーバックスで相対論と量子論の概要を知った時以来の知的な興奮を覚えました。
ホーキングがブラックホールエントロピーブラックホールの地平の面積に比例することを見出したこと、それがホログラフィック原理に展開されAdS/CFT対応にまでたどりつくところが圧巻でした。
AdS/CFT対応とは、重力のない2次元の時空が、重力のある(極率が負である)3次元の時空と等価であることと理解しました。これは笠、高柳という2人の日本人物理学者が見出したものです。
2次元的な凝縮系の物性論の問題が(3次元重力場の)一般相対性理論で扱える事(学科同期の永長教授が「物質の中の宇宙」といっていたのはこのことか!と得心しました。)など目を開かれる思いでした。
「われわれの住んででいる時空の曲率が負であるとの精度の高い観測結果が出るかどうかでマルチバース宇宙論が検証できる。」という柏キャンパスでの野村教授の講演の結言の背景が理解できたと思いました。
 【野村泰紀教授著「マルチバース宇宙論入門(星海社新書2017年)」読後メモ】
バークレーの野村教授が最初に宇宙物理学の発展の流れをわかりやすく説明しています。我々の宇宙は、ほんののわずかの相互作用の対称性の乱れがあるせいで反物質との対消滅を免れた、残りカスの物質から10万分の1の(量子力学的な)密度の揺らぎをもとに生成されたことを知りました。
超弦理論余剰次元の意味、あまりによくできた真空エネルギーの説明を経て、量子的マルチバース波動関数の重ね合わせとして確率空間に存在していることが説明されます。それを理解するためには観測(者)を波動関数の中に含めることが必要と説明されます。量子コンピュータの重ね合わせ状態もマルチバースと説明されます。非常に学びの多い、示唆を受けた本でした。私の中では、量子コンピュータは量子状態で演算して最後に観測して結果を得るものと思って消化不良状態になっていたので、私の(コペンハーゲン的な)観測観ではまずいんだな、というのと、量子ねじれとマルチバースってどうなっているの?という課題が浮き彫りになりました。
電波天文学の意味が分かって目からうろこでした(宇宙人と電波で交信している訳ではありません)。光速はどこから見ても不変(特殊相対論)という事が人間の認識の範囲を決めていると思いました。遠くからの光は過去からの光なのです。宇宙の果ては宇宙の始まりの情報を与えてくれます。高速で遠ざかっているものはドプラー効果で波長が長くなる。だから宇宙は(光の波長がドプラー効果で長くなった)電波で満ちている、しかも膨張している。ということがこの本でわかりました。
 【野村泰紀教授のKavliの量子重力の論文の読後メモ】
量子重力論は、2次元の重力のない場の量子論が3次元の重力のある空間の理論と等価であるというAdS/CFT対応関係(ホログラフィー原理)が前提になっていて、量子重力論の正しさは3次元の時空を記述した一般相対論の結果と整合するかどうかで検証するようです。
勉強会で、この論文を自ら訳してみんなで勉強したので、その重要な記述部分を末尾に記します。
 梶田隆章先生の講演会(1-20-2020@安田講堂)のメモ】
ニュートリノ振動の意味が明確に理解できた。
ニュートリノがミューからタウに変化する。変化するという事は時間の概念があるということ(光速で進む光には時間の概念がない=時間が進まない)。時間が進むという事は光速で動いていないという事になるので、それは質量がある事になるという説明がとても腑におちた。
ニュートリノの質量はクオークの質量の10億分の1.それがビックバンの直後に発生した物質と反物質が結合して結局物質がなくなるはずだったのが、10億分の1だけ物質が反物質より多くて、物質で構成されている今の宇宙ができたことに関係しているかもしれないという壮大なロマンある話が聴けてとても感銘した。
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Kavli IPMU News No. 43,
September 2018
Quantum Gravity and Quantum Information
Yasunori Nomura
の核心部分の対訳(抜粋)
 A strange thing here is that the entropy of a black hole is given by its area. Since a black hole is the fi­nal state of the evolution of any initial state, the entropy of the black hole must be indicating “the largest possible entropy that the region can have.” In modern days, we know that entropy is given by the logarithm of the number of possible quantum states that the system can take. If space is composed of some simple constituents as in ordinary materials (e.g., if space can be approximated by a lattice with a spacing of order the Planck length), then the largest entropy of a region must be proportional to its volume. However, the discovery of Bekenstein and Hawking says that it is proportional to the surface area.

 ここで奇妙なことはブラックホールエントロピーブラックホールの地平の面積(に係数をかけたもの)で与えられるということです。ブラックホールはいかなる初期状態から進化したものでもそれの最期の状態であるので、ブラックホールは“その領域が取り得る可能な限りの最大のエントロピー”を示していなくてはなりません。現代ではエントロピーはその系がとり得る状態の数の対数で与えられることが知られています(S=kBlogeW:Wは状態の数)。空間が通常の物質のような単純な成分で構成されていれば(それはすなわち、空間がプランク長の寸法の空間格子で近似できることと同じですが)、その領域の最大エントロピーはその体積に比例しなくてはなりません。しかし、ベッケンシュタインとホーキングの発見はエントロピーは(その領域の)表面積に比例すると言っているのです。            

注)プランク長 1.616229×10−35 m

 This implies that in a quantum theory with gravity, the number of fundamental degrees of freedom is given by that of spacetime with one dimension less than that of the original, dynamical spacetime. For example, while spacetime we live in seems to have three spatial dimensions (ignoring possible small extra dimensions), the “true theory” describing it must be formulated in spacetime with two spatial dimensions and one time dimension. This is possible because if you try to ­fill matter at each point in space (e.g., at each site of the Planck-size lattice), black holes form long before it is completely ­filled, and putting further matter only increases the size of the black holes. Namely, it is merely a ­fiction that the space we live in has full three dimensional degrees of freedom.

このことは重力を含む量子論では基本的な自由度の数は(重力によって)動いている元々の次元より一次元少ない時空の自由度で与えられることを示唆しています。例えば、我々が住んでいる時空は3次元空間に見えますが超弦理論で考えうる小さな追加次元のことは無視します)、(我々の住む)時空を記述する「真の理論」は二つの空間次元と一つの時間次元で定式化されなくてはならないのです。このことは可能なのです。その理由は、時空の各点(プランク長の格子点のそれぞれ)に物質を満たしていこうとすると、その空間全体を完全に満たしきるはるか前にブラックホールが形成されて、それ以降物質を置いて行ってもそれはブラックホールの大きさを大きくするだけになってしまう(3次元空間を満たしきれない)からです。それを言い換えると、我々が住んでいる空間は3次元の自由度をもっているというのはフィクション(作り話)なのです。

The idea that the theory of quantum gravity is formulated in spacetime that has lower dimensions than the apparent, dynamical spacetime is called the holographic principle. The lower dimensional theory formulated in this way called the holographic theory does not have the discrepancy between the number of true and apparent degrees of freedom, so it does not have gravity: the dynamical spacetime in higher dimensions and its associated gravity are only emergent. The fact that the holographic theory does not contain gravity at the fundamental level means that it can be treated as a regular quantum system, and hence can give a rigorous defi­nition of quantum gravity. This seems to be a pretty crazy conclusion. It would be natural if one cannot believe such a thing.

 重力を含む量子力学の理論が、重力によって動いている見かけ上の時空よりも一つ次元の低い次元の(重力を顕には含まない)時空で定式化されるという考え方はホログラフィー(2次元の光をホログラムに入射すると3次元の立体画像が見える)原理と呼ばれます。このようにして定式化された次元を下げた理論はホログラフィック理論と呼ばれますが、それは真の自由度と見かけ上の自由度との間に矛盾がないので、重力を含まないのです。そのことを(その矛盾のない次元より)高い次元で(ある力によって)動いている時空でみると、その動きに関連した力が重力として単に表れているだけなのです。ホログラフィック理論は(見かけの時空よりも低い次元である)基本レベルで重力を含んでいないという事実はその低次元の基本時空は通常の量子系として扱えて、量子重力が厳密に定義できるということを意味します。このことは結構常識はずれの結論に見えて、そんなことは信じられないというのも当然と言えます。

 <参考文献:ホログラフィック原理>

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E5%8E%9F%E7%90%86

高柳先生の講義

http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~tadashi.takayanagi/OsakaOpening.pdf

However, it has been shown - though only in some special cases - that quantum gravity indeed satisfi­es the holographic principle! This discovery was made by studying structures of string theory. In 1997, Juan Maldacena proposed, based on numerous evidences, that quantum gravity describing physics in spacetimes that asymptotically approach a certain space called Anti-de Sitter (AdS) space is equivalent to conformal fi­eld theory (CFT) formulated in non-gravitational spacetime that has dimensions one less than the gravitational asymptotically AdS space. This relationship is called the AdS/CFT correspondence.

 しかし、いくつかの特別な場合だけとは言っても、量子重力理論はホログラフィック原理を満たしていることが示されました。この発見は超弦理論の構造を研究することでなされました。1997年にファン マルダセナは数多くの事実に基づいて、反ド・ジッター空間(極率が負の空間)と呼ばれるある空間に漸近していく空間での物理を記述する量子重力物理学は、重力のある反ド・ジッター空間より一つ次元が少ない重力のない空間で定式化された共形場理論(CFT)と等価であると提案しました。この関係はAdS/CFT関係と呼ばれています。

 The AdS/CFT correspondence is an extremely powerful mechanism despite the fact that it applies only to special spacetimes. First, CFT is a class of quantum fi­eld theory and is mathematically well de­fined. This implies that quantum gravity in spacetimes that are not so distant from the one we live in (asymptotically AdS space) is de­fined for the ­first time without relying on perturbation theory. Also, many theories describing the nature (e.g., QCD describing nuclear force and theories used in condensed matter physics) are well approximated by CFT at strong coupling. In general, it is extremely diffi­cult to solve such a theory with strong coupling, but by the AdS/CFT correspondence we can solve it approximately using general relativity in one higher dimensions. And above all, this correspondence gives a concrete example of the holographic principle, showing how dynamical spacetime with gravity is generated from non-gravitational theory in lower dimensions.

 AdS/CFT対応は特別な時空(負の極率を持つ空間)に対してしか適用できないとは言っても極めて強力な(数値計算上の)方法です。最初にCFTは場の量子論の一種で数学的によく定義されたものです。このことは我々の住んでいる時空(極率が負であるAdS時空に漸近、即ち極限で一致する時空です)とそんなに大きく隔たっていない時空での量子重力物理学(3次元空間+時間の時空での重力を含めた量子力学)が(CFT:すなわち重力を含まない2次元の場の量子論)で正確に計算できるので、(近似解を級数展開で求める)摂動論に頼らないで初めて(正確な計算式で)定義できることを示唆しています。また、自然を記述する多くの理論(すなわち核力を記述するQCD: Quantum Chromodynamics: 量子色力学クオークの物理:や凝縮系物質の物理学で使われる理論:超流動超電導など)は強い相互作用を持つ時のCFTでうまく近似できるのです。概して強い相互作用を持つ(物性)物理のモデルの(CFTの)理論式を数式で解くのは極めて難しいのですが、AdS/CFT対応関係を使って、一つ次元を増やした(AdS)空間で一般相対論を使って近似的に解くことができるのです。そして、結局のところ、このAdS/CFT対応関係はホログラフィック原理の具体例になっていて、重力を持ち、その重力によって動いている時空が、重力を持たず、次元数が一つ少ない時空の理論からどのように生成されるのかを示しています。