日本酒を味わいながら、その奥深さと可能性について考える。古酒、新酒、アッサンブラージュ。でもやはりワインの魔力には勝てないのか。古酒試飲会。話は世界と時代を駆け巡った。

酒に関して感じ、思ったことをまとめてみた。
まずは日本酒の奥深さについて。NHK BSの番組。オンデマンドで見られる。
 メチャクチャ面白かった。
最大の驚きは、2018年まで28年間ドンペリ醸造責任者を務めていたリシャール・ジェフロワ氏が、富山県立山で日本酒を作り始めること。
しかもその製法は、「Assemblage(アッサンブラージュ)」すなわちブレンド
「万寿泉」で有名な枡田酒造が10数種類の生酛仕込みの原酒を提供し、ジェフロア氏がその配合を何か月もかけて決めたそうだ。普通、清酒にはないビンテージワインのような複雑ではあるがバランスの取れた、長い余韻(古酒にはある)のある酒になるそうだ。
シャンパン界で最高のアッサンブラージュをしてきたレジェンドが日本酒の新しい世界を立山の麓で拓く。酒蔵を設計したのは隈研吾(2019年11月起工式)。なんかすごい物語になりそうだ。
さらに、名古屋の酒蔵(萬乗醸造)の、フランスのマノビ米を使った酒造り。
このマノビ米で作った酒を飲んだフランス人はその米のとれた土地(南仏プロヴァンス地方のカマルグ:マルセイユモンペリエの間の海に近いところ)の塩味を感じて、通常の日本酒よりもおいしいと言っていた。フランス人にはフランス米で作った酒が最もおいしいはずだという思いが凄い。
アイラウイスキーのヨード臭をおもい出す。
酒=テロワール(土地)という事なんだな。
日本酒の奥深さと可能性を見た。さらに、それに惚れ込んで新しい日本酒の世界を拓いていく人々を知ることができたいい番組だった。
写真にある、キャラのたった「南部美人」酒造の社長も良かった。
火入れをしていない搾りたての一番おいしい生酒を海外に届けるために、瓶詰後すぐに-30℃で冷凍して出荷する「スーパーフローズン」にも意気込みを感じる。
三軒茶屋の新世代SAKE蔵のWAKAZEにも行ってみたい。
前編から見てね。
次は、古酒と料理のマリアージュ体験。
ある集まりがあって、日本酒の古酒をそれにあう料理とともに味わう会食をした。
料理との相性も抜群で、甲殻類、煮魚、ステーキ、どれとも楽しめる。香り、超柔らかい口当たり、長い余韻。どれをとっても清酒とは別世界。素晴らしい体験だった。
その集まりは、この素晴らしい古酒の魅力をどうやって広め、その価値に見合う対価をいただくかの意見交換会でもあったので、それについてちょっとまとめてみた。

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 【古酒のビジネスについて考えたこと】

1)古酒という貴重な「もの」を高く売るという発想を高めて、古酒を楽しむという「ワクワクする体験」を提供するビジネスをめざす。そのためには、古酒の「物語」が必要。

日本古来の神が飲んでいたのが「古酒」であり、古事記のなかに「古酒」が出てくる印象深い物語があれば、それに乗っかる。

そういえば、大人気アニメ映画の「君の名は」に、天女が口に含んで作った酒の話が出てきます。それが古酒の起源であるような物語で繋がると素晴らしい。若者にも訴求する。

2)ビンテージ古酒に対するセカンドブランドを作って、中国人のインバウンドにも対応し、世界に古酒を広める。

一定規模での安定製造ができないので、中国人向けの量販店に展開できないのは、ちょっと残念に思う。量の期待できるマーケットにセカンドブランドで対応する。

古酒をアンティークジュエリーのような、手に入れただけのものを売るビジネスにしていては発展できない。古酒も食材なので、毎年一定規模の生産量を確保する。

その視点から、京丹後市にある、古酒を古酒として作っている酒蔵が魅力的です。京丹後市は天の橋立が近い。しかもその酒蔵の杜氏は外国人。ネタはそろっている。

その外国人が天の橋立に行ったとき、天女が降りてきて「古酒」を作りなさいと言われたというような「物語」が欲しい。それで、氏は古酒の醸造にのめり込み、清酒が古くなって古酒になるのを待つのではなく、最初から古酒を古酒として作る手法を天女の導きで思いついたというような。外国人が古酒にのめり込むというのはインパクトがあります。それをきっかけにフレンチレストランや海外に拡販をかける。

3)ブランディング

「古酒」は天からやってきた酒というイメージをネーミングに込める。

ビンテージ古酒のシリーズは 「天嘗」 (天が嘗めて作った酒)

導入用のセカンドブランドは 「天魁」 (天のさきがけ)

とする。「天魁」が宮内庁御用達になれば最高。

「天嘗」には様々な個性があるので、様々な古酒の詰め合わせ販売ではなく、4合瓶を桐箱に入れてブランドを際立たせて個別販売する。「天嘗」の下に個性を表す個別ネームをつける。

等、思いついたことを記してみたが、このままでは単なる妄想だなあ。

とはいうものの、友人が経営する酒販店の試飲室で、とある勉強会のオフ会を行った時に、古酒のいくつかを持ち込み、新酒、生酛、バラの花から取った酵母で作ったお酒などと飲み比べて皆の感想を聞いてみた。

【古酒試飲会、話は世界と時代を駆け巡る】

まずは古酒の感想から。

 「ああ、柔らかくて、いい後味がずっと続く。1995年ものと2003年ものの違いはわかるね。」

「一つ間違うと米酢に思われるかもしれないね。酒を無管理で放っておくと酢になるという俗説もあるし。」

「酒は新しい方がフレッシュでいいという思い込みもあるしね。」

「売れ残って置いておいたものが古酒だ、という風に思われるとその価値が伝わらないね。」

など、なかなか一言でその価値が伝わる感じがしない。

【話はワインへ】

ワイン好きからは

アメリカのレストランでオーパス・ワン(当時のワインショップの値段は200ドル、今は日本の酒販店では6万円)を飲んだことあるけど、やっぱり並みのワインとは全く違ったよ。味覚が魔力的にもてあそばれる感じだったなあ。最初そっと口に含むと、舌の上面がザワザワっとして、あれ、オリでもあるの?なんて思ったけど、そんなことはなくて、その後すぐに舌の横でいい苦みを感じたなあ。苦みは舌の端の部分で感じると言うけど、ほんとにそうだなあと実感したよ。そしてゆっくり飲むと、鼻に甘い香りが抜けて行って、口から喉にかけて甘くて柔らかい味が10秒ぐらいずーっと残るんだ。もう胃袋に納まったはずのワインがまだ喉にひっかかっているのかと思ったよ。喉が味を感じるなんて初めての感覚だったな。味覚と嗅覚がクロストークしたのかな。数十年前の経験を今でもこうやって語れるほどの強烈な経験だったなあ。そういうモノが古酒にもあるといいんだけどねえ。」

「ふーん、オーパス・ワンでそうなら、ロマネ・コンティ(高級フレンチレストランで200万円以上)飲んだら卒倒するかもねえ。そういう凄い味覚って、味蕾細胞の反応というセンサーレベルの話ではなくて、脳内で味覚を認識する神経細胞ネットワークが過去の知覚経験で培ったアルゴリズム(CNN)では味覚センサーから来る情報を処理できなくて、善き誤動作を起こしてるんじゃないのかな。」

【話は味覚の認識論から細胞生物学へ】

「つまり、今まで経験したことのない味覚や嗅覚に、脳が反応できず、とりあえず悪いものではなさそうだから、いい反応を返しておこう、ってことなのかな。味覚や嗅覚は本来、体に毒なものを入れず、栄養になるものを得るための選別機であったはずのものが、快楽の追求の道具になった感があるよね。」

「それって脳内の化学反応を混乱させる麻薬にちかいかも。麻薬のように化学反応という物理レイヤーでなく、アルゴリズムという上位(ソフトウェア)レイヤーで起きているとしたら凄いね。」

「情報社会は視覚と聴覚は扱うようになったけど、味覚と嗅覚は扱うすべがまだない。触覚はもう少しで扱える(ハプティック)。生命体が生命を維持する上では、触覚、味覚、嗅覚がとても大事。今の情報社会がこのまま視覚と聴覚だけで発展しても命が活性化される感じがしなくて、むしろ無機的な世界の到来を予感させるとことはそんなところにあるのかもね。」

「そう、これからは細胞生物学(オートファジー)による寿命拡張の探求と、脳内の意識の発現を神経細胞ネットワークの上位レイヤーレベルで理解することが肝要だな。」

「オートファジーの活性化で120歳まで生きるとしても、ただ生きてるだけじゃ意味がないよね。生きて何をするか。それが問題。」

【話は世界を駆け巡る】

「今の地球人口は78億人。過去50年で倍になった。そうはならないだろうけど、後50年でまた倍になるとしたら、地球って持つんだろうか(環境、食料、水)と思う。」

「2030-2040年頃には、地球レベルで大きな転換点が来そうだね。その頃はまだ生きている可能性が高いから、自分事として考えないと。」

「自分事で考えるなら、地球全体という視点はいらない。食料とエネルギーが自給自足できる善きコミュニティを作り、その中の一員としてなにをするかの視点でいいんだよ。」

「地域コミュ二ティが世の中の基本単位になると、国家ってどうなっちゃうのかな。国家とは国境を定め、その中にいる人々を国民と定め、その国民を守るために権力を内外に行使し、その行動原資として国民から税金を集める権限を有するもの。宗教のように、国境で区別できないものが、国家権力の上に来ると、国家の体は崩壊する。そういう動きが加速している地域もあるので、国家を単位で考えてはもういけないのかもしれない。」

縄文文化をもつ日本人はその歴史の中に解をもっているはず。縄文文化が世界中に拡がったことを含めて、縄文文化のことをもっとよく知るべき。」

「将来に向けては、地球温暖化とか、パンデミックとか、表面的な報道の裏にある事実を読み解かないといけないね。」

など、話はどんどん飛躍、循環する。

ワインには確かに物語を加速するところがあるなあ(今回は日本酒だったけど)。

そういえば、店主お勧めのアゼルバイジャンワインを飲み忘れた。

では次回、アゼルバイジャンワインを飲みながら、ノアの箱舟から、中近東情勢を最初のネタに語り合いましょう。

あ、次回は、縄文文化の咲き誇った阿蘇山麓で、でしたね。

熊本にも素晴らしい酒がある。楽しみです。